玄関のチャイムも鳴らさずに鍵が回った音で、美代はソファから立ち上がった。
ドアの向こうから、雨の匂いを連れて早苗が入ってくる。
「ただいま……傘、差したんだけどね」
前髪の先から雫が落ちて、スーツの肩が斑に濡れていた。
美代は洗面所から取ってきたタオルを広げ、返事を待たずに早苗の頭へ被せる。
「帰るコールくらいしてよ。迎えに行ったのに」
「終電間に合うかどうかで走ってたから、そんな余裕」
くぐもった声が布の下から返ってくる。
美代は両手でわしゃわしゃと拭きながら、早苗の首筋がひどく強張っているのに気づいた。
繁忙期に入ってからこの二週間、起きている時間がまるで噛み合わなかった。
早苗が帰る頃には美代は寝ていて、美代が出る頃には早苗がやっと寝入っている。
すれ違いの日々の終わりに、ようやく金曜の夜が来た。
「疲れた顔してる」
「美代だってしてる」
タオルの端から覗いた目が、少し笑っていた。
濡れた髪を撫でつけているうちに、早苗の手が美代のシャツの裾を握った。
子どもみたいな握り方だな、と思った瞬間には、もう唇が触れていた。
雨で冷えていた唇の奥が、すぐに熱くなる。
廊下を二歩、三歩、もつれるように寝室まで。
ジャケットは途中の床に落ちた。
ベッドの端に早苗を座らせて、ブラウスのボタンを上から順に外していく。
外し終わる前に早苗のほうが焦れて、自分でスカートのホックを弾いた。
ストッキングの内側が、まだ雨でひんやりしている。
「せっかちなんだから」
「……二週間だよ」
その言い方があまりに素直で、美代は笑ってしまった。
仰向けになった早苗の膝の間に、自分の膝を割り込ませる。
太腿で押し上げるようにして体重をかけると、下着越しの割れ目が膝小僧に沿って熱を持った。
布の下が、息に合わせて小さく開いたり閉じたりする。
早苗の呼吸が浅くなる。
はぁ、はぁ、と天井に向かって漏れる息。
「んー? どした?」
わざとらしく覗き込みながら、美代は膝をぐりぐりと動かした。
割れ目の筋に沿って布を押し込むと、湿りが膝へ滲んでくる。
「うぅ……もう…やだ……」

