貴子は教える側の人間で、莉央は教室でいつも背筋を伸ばして座っている学生だった。
卒業式の日に震える声で告白したのは莉央のほうで、貴子はそれを受け取った。
今はもう先生と学生ではない。
休みの日に待ち合わせて、並んで歩いて、暗くなる前に別れる。
恋人と呼び合うようになって、まだ日は浅い。
貴子のほうは、もう莉央を恋人だと思っている。
自分がそう呼ばれることにも、莉央をそう扱うことにも、迷いはない。
ただ莉央のほうは、言いたいことを口にするまでに時間のかかる人だった。
卒業式のあの日もそうだったのだと、貴子は思い出すことがある。
言わずに済ませられるうちは何も言わず、もう抱えきれなくなってから、ようやく震える声で差し出してくる。
恋人になった今も、その順番が変わったようには見えない。
だから貴子は、莉央が黙っている時間を急かさない。
待っていれば、言うべきことは莉央のほうから出てくる。
教室で見ていたころからそうで、そういう相手だと知っているぶん、待つこと自体は貴子にとってもう習慣に近かった。
恋人になってからも、その習慣だけは変わらずに続いている。

