結婚して二十年。
亮介も奈津子も、四十五になった。
四人の子どもを育ててきた家の中では、二人はたいてい父と母の顔で過ごしている。
朝の支度、弁当、洗濯、それぞれの予定の確認。
夫婦という関係は、日々の段取りの下に畳まれたまま、取り出される機会もなく続いてきた。
亮介も奈津子も、その暮らしを不満に思ったことはない。
ただ、奈津子の方には、少しだけ引っかかっていることがある。
一日の終わりに残っているのは母親としての手順ばかりで、身体がくたびれていても、頭の片隅は明日の弁当や洗濯物のことを考えてしまう。
自分が一人の女でもあるという感覚は、思い出す機会のないまま、一日が過ぎていく。
亮介がそれをどう見ているのかは、奈津子には分からない。
子どもが四人いれば、家に誰もいない時間というものは、そうそう作れない。
その金曜日は、下の子が修学旅行に出て、上の三人もそれぞれの予定で家にいなかった。
父と母を置いておける夜が、めずらしくやってきた。
それでも奈津子の意識は、母として明日の段取りを考えてしまう。

