奈津子は流しの前で、濡れた手を亮介に包まれた。
「……っ?」
タオル越しに、彼の指が自分の指を一本ずつ確かめるように動く。
四十五歳の男の手にしては丁寧すぎる触り方だと、奈津子は思った。
「珍しいね、静かで」
亮介が耳のすぐ後ろで言った。
吐息がかかる。
奈津子の肩が小さく跳ねた。
家は、本当に静かだった。
子どもが四人もいると、夫婦が本当に二人きりになる夜は、年に数えるほどしかない。
「静かすぎて落ち着かない。洗濯機回しとこうかな」
「明日でいいよ」
亮介の手がエプロンをよけ、Tシャツの裾から入り、腰のくびれを掌で包む。
指先が下着のゴムに触れ、ゆっくりと横に滑った。
脇腹の柔らかな肉をなぞり、ゆっくりと上へ。
「んっ……」
流しの前に立ったまま、亮介は先を急がなかった。
胸の下側から脇腹、そして再び下着の上まで、掌と指で丁寧に行き来するだけ。
肝心なところには、まだ触れない。
わざとだ。
奈津子は息を呑んだ。
二十年連れ添っても、ここが弱いのを亮介はちゃんと覚えている。
覚えているくせに、わざと時間をかけて。
弱いところを知っていながら、すぐに指を中へ入れず、下着の縁をゆっくりと押し下げながら、指先で割れ目の外側を何度も確かめるように撫で回す。
「……ねえ」
「ん?」
「ちょっと、意地悪くない?」
「どのへんが?」
奈津子は笑おうとして、息が揺れた。
亮介の指は下着の縁を辿っているのに、まだ、内側には入ってこない。
奈津子の腰が勝手に浮いて、自分からその手に押しつけるかたちになって、頬が熱くなる。
「あっ……んっ」
亮介は、ただ意地悪く焦らして楽しみたいわけじゃなかった。
奈津子が母親の顔をしまって、自分の身体の感覚だけに意識を向けるまでに、だいたいこのくらいの時間が要ることを知っているだけだ。
急かすと、奈津子はすぐに「ママ」の顔に戻ってしまう。
身体が熱くなりかけても、明日の弁当とか洗濯物とか、そういう場所に意識が飛んでしまう。
「亮介」
「うん」
「……欲しい」

