高槻信之と岡野賢治は、同じ部署の同僚だった。
席も近く、打ち合わせでも並んで座ることが多い。
高槻はたいてい余裕のある顔をしていて、岡野をからかう側にいる。
岡野は言い返してみせるが、最後には押し切られて黙ることになる。
そういう並びのまま、二人の距離は長いあいだ変わらずにきた。
ただ岡野には、口にできないままの思いがひとつあった。
あの余裕を一度崩してみたい、自分の手で反応を引き出してみたい。
けれど昼間の机の列の中では、それを言葉にする理由などどこにもなく、冗談の形にすれば流されて終わるのも分かっていた。
高槻の側がどう思っているのかも、岡野には分からないままだった。
その日は残業だった。
退勤の時刻はとうに過ぎ、同僚たちは一人ずつ帰っていき、キーボードの音も途切れている。
フロアに残っているのは高槻と岡野だけになり、書類の束も画面の光も、終わりに近づいていた。
消灯を告げる放送までの時間だけが、まだ二人の前にあった。

