同じイタリアンの店で、智也と裕一は週に何度かシフトが重なる先輩後輩だった。
店で交わすのは仕事の話だけで、それ以上の口をきく間柄ではなかった。
その夜、閉店作業を終えた裕一が終電を逃したと言うので、智也は宅飲みという建前を持ち出した。
平日の深夜で、行き先は智也のワンルームだった。
着替えた制服は袋に入れたまま、それぞれの荷物になっていた。
建前は建前として、部屋で飲むこと自体は続くのかもしれない。
ただ、そこでシフトの話をしないことは、たぶん二人とも分かっていた。
こうして夜を跨ぐのが初めてではないことも、二人は口にしない。
誘って断られなかった、という事実だけが智也の手元にある。
裕一が何を考えて頷いたのかは、一度も聞いたことがなかった。
断らない理由を、智也は自分の都合のいいように数えないことにしていた。
欲しいとは言わない後輩で、店では先輩の顔しか見ていない。
智也も、それを名前のある関係に変えるような言い方は選ばない。
誘いの続きをどう言うかも、決めてはいなかった。
二人分の帰り道が一つになった、それだけの夜だった。

