閉店後の厨房の匂いが、まだ髪に残っていた。
智也の部屋に着いたときにはもう日付が変わっていて、裕一はシャツの袖を二つ折りにしたまま、玄関で靴を揃えていた。
店では「お疲れさまです」しか言わない後輩が、こういうときだけは黙って部屋に上がる。
それが智也には妙に可笑しくて、そして少し、たまらなかった。
「腰、痛くない? 今日ずっとホール走ってたろ」
「平気です」
「ほんとかなあ」
言いながら智也は、ベッドに座った裕一の背中に手を這わせた。
労うふりをした指が、シャツの裾から入り込む。
焦らないのが智也のやり方だった。
背骨のくぼみを撫で、脇腹をなぞり、そのままゆっくり下へ。
触ってほしい場所を、わざと一度ずつ外していく。
「待って、智也さん、それ……」
「それ、なに?」
裕一は答えなかった。
答えられないのを知って聞いている智也の質は悪い。
ベルトを外す手も、ズボンを下ろす手も、必要以上に丁寧で、遅い。
素肌に空気が触れるたび裕一の呼吸が浅くなっていくのが、手のひらの下で分かった。
「なんか、ゆっくりすぎ……」
「急いでほしい?」
「そういうことじゃ、なくて」
「じゃあどういうこと?」
裕一は枕に顔を伏せた。
首の後ろが赤い。
智也は笑って、その赤い場所に唇を落とす。
舌先で舐めると、裕一の背中がびくりと跳ねた。
声は出さない。
出さないように歯を噛んでいるのが分かるから、智也は余計に長く舐めた。
ローションを手の中で温めてから、指を一本、ゆっくり沈める。
裕一の腰が逃げかけて、それでも逃げきらずに戻ってきた。
中はもう熱くて、柔らかくて、智也の指を素直に飲み込んだ。
「……ん、う」
「もうこんな感じ? 今日、店の裏で俺に肩ぶつけられてから、ずっと待ってた?」
「そんなこと、……ないです」
「嘘つき」
指を折り曲げて、覚えのある場所を掠める。
裕一の喉から、押し殺しきれなかった息が漏れた。
二本目を足しても、抵抗はほとんどない。
出し入れするたびに湿った音が立って、部屋の静けさに嫌になるほど響く。
裕一が耳を塞ごうとするので、智也はその手首を掴んで枕の横に置いた。

