余裕そうな顔が崩れるところを、見たかった

高槻はデスクのファイルを閉じ、ディスプレイの電源を落とす。

最後の蛍光灯が消えた。

非常口を示す緑色の光の中で、二人は一度だけ目を合わせた。

口には、続きの名前は出さない。

続きを口にすれば、約束になる。

岡野はわずかに頷く。

高槻も、ほとんど分からない角度で頷き返した。

「お疲れさまでした」

「……お疲れ」

岡野はエレベーターへ向かい、高槻は書類を一束抱えて階段へ歩いた。

続きの約束はしていない。

一度きりだったのか、始まりだったのかも、まだ、どちらとも決めていない。

ただ、もう以前と同じ距離には戻れない。

腹に残った濡れの感触だけが、言葉にされないまま、二人それぞれの帰り道までついてきていた。

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