楽屋で出したあと、恋人役に「明日から俺の顔をまっすぐ見られるか」と訊いた件

札幌公演の千秋楽の拍手がまだ耳の奥で鳴っているのに、楽屋の鏡に映った自分の顔はひどく冷えていた。

崩れたドーランを落としながら、隣の椅子の修真の横顔を見ていた。

「三幕のあの間(ま)、あれは何だ」

「間?」

「お前、台本より二拍遅らせただろう。俺の台詞が全部、お前待ちの前置きに聞こえた」

修真はコットンを持った手を止めて、少し笑った。

笑い方までうまい。

腹が立つ。

「彰が待ってくれる気がしたから」

「待たされたんだよ」俺は鏡から目を逸らさずに言った。

「正直に言う。妬ましかった。十年間、賞も役も取り合って、それでも今日みたいに客の呼吸まで持っていかれたのは初めてだ」

言ってしまうと、喉のあたりが軽くなった。

修真がこちらを向いて、俺は鏡から顔を上げた。

「嬉しいな、それ」

「嫌味で言ってる」

「知ってる。でも嬉しい」

修真の指が、俺の襟元に落ちた化粧の粉を払った。

指の腹が鎖骨のくぼみを一度なぞって、離れなかった。

それだけで楽屋の空気が変わった。

鍵をかけたのは俺で、先に唇を寄せたのも俺だった。

修真は目を閉じずに見ていて、その目が笑っていたから引き返せなくなった。

衣装のラックが揺れ、長椅子が軋んだ。

「彰、明かり」

「消したら顔が見えない」

「見たいの?」

「見たい。お前がどう濡れて、どう咥えるかまで見たい」

修真はそれ以上言わなかった。

シャツのボタンを外す手つきが落ち着いていて、また少し妬んだ。

ズボンの釦まで外させると、修真のものがすでに熱を持って起きていた。

掌で裏筋を擦ると、先から滲んだ液が指の腹に絡み、息が短くなる。

「ひとつずつ答えよう」修真が言った。

「訊きたいことがあるんだろう、さっきから」

「何を根拠に…」

「彰は嘘をつくとき、瞬きが減る」

何百回も見られてきた顔だ。

隠せるはずがなかった。

「じゃあ訊く。…いつからだ」

「七年前の、雨の再演。彰が咳き込みながら幕を下ろした日」

「あんな不出来な日か」

「不出来な彰を初めて見た日だ」

答えを噛み砕くより早く、修真が腕を引いた。

上からのぞき込まれて、息だけが一瞬遅れた。

BL
PR
この作品をXでポスト