シティーホテルの最上階、窓の外は空ばかりだった。
眼下にビルの頭が並んでいて、夕方前の光がガラスにぶつかって跳ね返っている。
穂乃香はその窓際に立ったまま、まだコートも脱いでいなかった。
「座っていいんだよ。何も始めないから」
そう言うと、彼女はやっと振り向いて、少しだけ笑った。
緊張で口角だけが動く、あの笑い方だ。
「あの、……電話でも言ったんですけど」
「うん」
「今日、ここで、初めてを終わらせたくて」
23歳。
初めての利用。
自分から連絡をくれた。
業務連絡みたいな文面の中に、一行だけ、震えるみたいに本音が混ざっていたのを覚えている。
「わかった…じゃあ、ゆっくりやろう。急ぐ理由はどこにもないから」
コートを預かって、ソファに並んで座る。
手を握ると、指先が氷みたいに冷えていた。
僕はその手を自分の手のひらで挟んで、温める。
他の客にもやることだ。
やることなんだけど、今日は少し、やけに丁寧になっている自分に気づいていた。
口には出さない。
「手、冷たいね」
「……緊張してて」
「それが普通。寒い?」
「ううん、平気です」
髪に触れて、頬の輪郭をなぞって、耳のうしろまで指を滑らせる。
穂乃香の睫毛がぱちぱち動いた。
「ここ、くすぐったい?」
「ちょっと……でも、やだって感じじゃない、です」
「じゃあ続けるね」
ゆっくりと唇を重ねると、驚くほど素直に唇が開いた。
僕は、力の入りすぎた肩をなだめるみたいに背中を撫でて、少しずつ深くしていく。
鼻から抜ける息が熱を帯びてきて、肩の線がようやく下がった。
そのタイミングでブラウスのボタンをひとつ外す。
「嫌じゃない? 嫌なところあったら言って」
「大丈夫……です」
ボタンを順に外して、肩から滑らせる。
白い肩が照明の下で薄く光って、鎖骨のくぼみが呼吸のたびに動いていた。
白いブラの縁まで指を止めて、ホックに触れる。
「外すよ」
小さく頴いたので、背中で外した。
肩紐をずらすと、布が落ちて、胸が空気に触れた。
小さくて、先端だけがすでに硬く立っている。
僕は、鎖骨の下を掌でなぞって、胸の膨らみの外側をゆっくり円く撫でた。

